奈良墨 墨匠 Atsushi Nagano

墨業界に新風を巻き起こす 錦光園七代目 長野 睦

「分かりずらい墨の魅力を分かり易く伝え、衰退していく墨作りの産地を守る」を使命とし、「書く」だけでなく「見る」「香る」を楽しむ墨を次々に開発し話題を提供し続ける長野氏。

奈良の工房にて墨づくり体験の場を提供するほか、出張交通費、講師料無料で日本の47都道府県どこへでも出向いて「すみからすみまで墨のおはなし」を開催し、幅広く墨の魅力と文化を紹介しています。

奈良を代表する宝物である「伎楽面」をモチーフにし、「書く」だけでなく、「見る」「香る」、あるいはインテリアとしても楽しむ墨の新たな魅力を楽しむ「香り墨Asuka」、贈答用にピッタリの「菓子木型墨」、手軽に楽しめるように開発された「おはじき墨」などワクワクが止まらない墨のラインナップが魅力です。

そうして墨の新しい扉を開き続ける長野氏が、いま改めて深く向き合っているのが、墨の命ともいえる二つの主原料、「松煙(しょうえん)」と「油煙(ゆえん)」の自社製造、そして墨木型という伝統の意匠を次世代へ繋ぐ取り組みです。

かつて暮らしのなかにあった固形墨は、やがて日常の中で手軽に書く楽しさを支える液体墨(墨汁)の普及へと繋がり、現代ではさらに、キーボードや画面を通じて瞬時に多くの情報を伝えるデジタルツールへと移行してきました。それぞれが時代のニーズに応じた大切な役割を果たし、私たちの生活を豊かに便利にしてくれる一方で、かつて私たちが「墨を磨(す)る」という静かな時間の中で受け取っていた、かすかな摩擦の音や、ふわりと広がる香りといった五感の豊かな体験は、少しずつ特別なものとなりつつあります。

需要のバランスが変化する波の中で、墨の表現の核心である「煤(すす)」の灯火もまた、未来への継承の岐路に立たされています。松を燃やして採る松煙の職人は、現在国内で紀州松煙の堀池雅夫氏のみ。また、長年多くの良質な油煙を届けてきた大手の製造元も、近年その役割を終えました。現在では、一部の墨屋が自社で細々と油煙を守るにとどまっているのが現状です。

これを背景に、長野氏は自らの手で松煙と油煙を採取するプロジェクトを決意し、歩みを進めています。

煤採りは、自然の呼吸と真っ向から向き合う繊細な仕事です。煤を製造するための場所探しから始まり、天候や風向きを読みながら火を絶やさず、最後には工房中が真っ黒になる中で、微細な煤を丁寧に集めていきます。たとえば松煙の場合、500kgもの松を100時間もの時間をかけてじっくりと燃やしても、得られる煤はわずか10kgほど。これほどまでに時間と精力を傾けるのは、その丁寧な手仕事の先にしか生まれない、表現者のための「黒の表情」があることを、長野氏が誰よりも知っているからです。

また、墨を固め、その表面に美しい絵柄や文字を施す「墨木型(すみきがた)」の存在も、墨の文化を支える大切な柱です。

長野氏は、この精緻な木型彫刻の技術を絶やさぬよう、新たな担い手を育てることにも深く心を砕いてきました。かつて最後の一人とされた墨木型職人・中村雅峯氏のもとへ、志を持つ佐藤奈都子氏を引き合わせ、弟子入りから技術の習得にいたるまで、その歩みを静かに、そして温かく後ろから支え続けました。

長野さんが全国へ出向いて墨の話を届け、煤採りにまで自ら身を投じる背景には、「道具をつくる人々がいて初めて、書く、描くという表現の文化が成り立つ」という確信があるからです。ただ昔と同じことを繰り返すのではなく、現代を生きる人々がその手触りに気づくきっかけをつくり、産地全体の繋がりを次世代へ繋ぐこと。それこそが、長野氏の考える「墨守(ぼくしゅ)」の姿なのかもしれません。

表現者が一本の墨を手に取り、静かに硯(すずり)で磨(す)るそのとき。
手元からは心地よい摩擦の音が響き、五感を優しく包み込む香りが立ち上ります。白い紙を前に心を落ち着かせるその刹那、奈良の風土や、この一本の墨に命を吹き込んできたさまざまな職人たちの眼差しが、私たちに静かに語りかけてくれます。

その見えない想いは、表現する私たちの背中をそっと、しかし確かに押してくれます。『rimpamura』はこれからも、この静かな挑戦に寄り添い続けていきます。

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    • 最盛期の3%まで減少の「奈良墨」1400年の伝統を守る後継者の挑戦「需要を生んでいくのも仕事」 ▶︎カンテレNEWS
    • はじまりの墨」伝来1400年 存続の危機に奈良の墨工房がCF ▶︎朝日新聞デジタル
    • 歴史ある業界誌『墨』が注目の若手筆墨硯紙職人に声をかけ座談会を開催。文房四宝を取巻く日本の現状についてお話ししています。
    • SPUR 2024年7月号:モード界の目利き47人がプレゼンするご当地の名品「クラフトを巡る旅7 振り返れば地元がすごい! 目利き47人のご当地自慢品」にておはじき墨が紹介されています。
    • 香る墨、飾ってめでる墨。世界から愛される新しい墨のかたち。▶︎News picks +d
    • 生の墨を握り、香りを嗅ぐ。にぎり墨体験で得られる日本の心▶︎NewsPicks +d
    • わかりにくい「墨」の魅力を伝える、日本一小さな墨工房。▶︎NewsPicks +d
    • 7代目墨匠の長野睦さんは「墨を作るだけで伝統は受け継がれない。知ってもらうことが必要だ」と語る。▶︎日本経済新聞
    • 世界!ニッポン行きたい人応援団(テレビ東京)▶︎テレ東プラス
    • 子どもたちの研究成果でPR 伝統の「奈良墨」づくりに新しい視点 ▶︎奈良新聞
    •  伝統の墨作りを支える唯一人の墨型彫刻師 ──【奈良墨職人】長野墨延さん・睦さん/【墨型彫刻師】中村雅峯さん(奈良市)▶︎ 月刊ガバナンス 2023年10月号
松煙墨
錦光園_rimpamura_菓子木型
菓子木型墨
おはじき墨
錦光園_rimpamura_ASUKA
香り墨
油煙墨

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長野氏が手がける奈良墨コレクション